
個人事業主のまま法人も作る「二刀流」って、結局手間の割に得なの?
――そんな疑問を持つ方は多いはずです。
「マイクロ法人と個人事業主の二刀流」は、検索すればメリットを並べた記事がいくらでも出てきます。
私自身も「二刀流のメリット7選」という記事を書いています。


ただ、実際に二刀流を続けている立場から言うと、向いていない人にはハッキリ向いていません。
メリットだけ読んで法人を作ると、「維持費と事務だけ増えて、思ったほど得をしない」という結果になりかねないからです。
この記事では、二刀流の「損する側」を先に書きます。
デメリット5つ、向いていない人の条件、損益分岐の考え方、そして私がそれでも二刀流を続けている理由まで、実体験ベースで解説します。
読み終えるころには、「自分は法人を作るべきか、まだ早いのか」を自分の言葉で説明できるようになるはずです。
二刀流(掛け持ち)とは何か・30秒で整理


二刀流とは、個人事業主を廃業せず、別に法人(マイクロ法人)を作って両方を並走させる形です。
ここで大事なのは、「1つの事業を個人と法人に割る」のではなく、「事業や収入源ごとに、個人と法人で受け皿を分ける」という点です。
私の場合は、次のように分けています。
| 区分 | 所得の扱い |
|---|---|
| 法人 | Web制作・不動産の賃貸 → 法人で受け取る |
| 個人 | 不動産の賃貸 → 個人事業で計上 |
このように、業務内容や収入源に応じて役割を分担することで、ムリなく所得を分散できます。
逆に言えば、分ける事業や収入源がない人は、そもそも二刀流にする材料がないということでもあります。
この前提を押さえたうえで、デメリットを見ていきましょう。
二刀流のデメリット5つ【実践者が正直に書く】


事務と会計が2本立てになる
個人事業主の確定申告に加えて、法人の決算・申告が毎年発生します。
帳簿も2セット、レシートの仕分けも「これは個人、これは法人」と常に判断が必要です。
私は法人の申告を最初から税理士に依頼しています。
法人の申告書は個人の確定申告とは難易度が違い、自力で正しく仕上げる自信がなかったからです。
さらに法人を設立してからは、個人の確定申告も税理士に任せています。
法人からの収入が個人側に入るようになり、両方をきちんと整合させて申告したかったからです。
「正しく申告したい」が本音で、結果として本業と投資に集中できています。
逆に言えば、事務を自分で回す前提で二刀流を始めると、ここで最初につまずきます。
法人側の維持費は、利益ゼロでも固定でかかる
法人は赤字でも、法人住民税の均等割7万円が毎年かかります。
税理士に依頼すれば顧問料や決算申告料も加わり、「法人を持っているだけで出ていくお金」が毎年発生します。
私のマイクロ法人の維持費は、税理士費用・会計ソフト・均等割を合わせて年間約43万円です。
個人事業主なら、売上がなければ税金もほぼゼロ。
この「固定費が生まれる」という違いは、法人化前に必ず数字で確認しておくべきポイントです。
具体的な維持費の内訳は、こちらの記事でまとめています。


社会保険は法人側で加入=役員報酬の設計が必要になる
法人を作って役員報酬を受け取ると、原則として法人側で健康保険・厚生年金に加入します。
保険料は役員報酬の額で決まるため、「報酬をいくらにするか」という設計が新たに発生します。
これはメリット(国民健康保険より安くなるケース)として語られることが多いのですが、裏を返せば、設計を誤ると効果が出ません。
奥さんの扶養との関係など、家族構成によっても最適解が変わります。


事業の切り分けが曖昧だと、否認リスクがある
「同じ事業を個人と法人に適当に割り振る」「実態のない法人に売上だけ付け替える」といった形は、税務署から実態がないと判断されるリスクがあります。
私は「法人=Web制作・不動産の賃貸」「個人=不動産の賃貸」と分けています。
同じ不動産の賃貸でも、物件・契約ごとに法人と個人のどちらで受けるかを決めており、それぞれが独立した契約として説明できる形にしています。
どこまでが認められるかは個別の事情と税務署の判断によるため、切り分けに迷う場合は、設立前に税理士に相談しておくのが現実的です。
「節税のために形だけ分ける」発想で始めると、後から苦しくなります。
所得が少ないうちは、節税効果よりコストが上回る
二刀流の効果は、「法人の固定費」と「所得分散による税・社会保険料の差額」の綱引きで決まります。
所得がまだ少ない段階では、差額よりも固定費の方が大きくなり、二刀流にした方が手取りが減るということが普通に起こります。
つまり、二刀流には損益分岐点があります。
次のパートでは、「自分は分岐点を超えているのか」を判断するための、向き不向きの整理と損益分岐の考え方を解説します。
二刀流が向いている人・向いていない人


デメリット5つを踏まえると、二刀流の向き不向きはかなりハッキリ分かれます。
| タイプ | 二刀流は | 理由 |
|---|---|---|
| 個人と法人で分けられる収入源が2つ以上ある | 向いている | 事業ごとに受け皿を分けられ、切り分けの説明がしやすい |
| 事業所得が安定して一定水準を超えている | 向いている | 所得分散の差額が法人の固定費を上回りやすい |
| 事務は税理士に任せる前提で考えている | 向いている | 2本立ての申告を自分で抱えずに済む |
| 資産運用・FIREと組み合わせたい | 向いている | 法人と個人で役割を分けた設計がしやすい |
| 収入源が1つだけ・所得がまだ少ない | 向いていない | 分ける材料がなく、固定費だけが増える |
| 事務・帳簿を全部自分で回すつもり | 向いていない | 決算・申告の負担で本業が止まりやすい |
| 「節税」だけが目的 | 向いていない | 形だけの切り分けは否認リスクと手間だけが残る |
- 向いている人の共通点:「分ける事業がある」「固定費を上回る所得がある」「事務を抱え込まない」
- 向いていない人の共通点:「分ける材料がない」「まだ所得が少ない」「節税ありき」
「自分はどちらだろう」と迷う方は、次の損益分岐の考え方で数字に置き換えてみてください。
損益分岐の考え方(簡易シミュレーション)


二刀流で得をするかどうかは、突き詰めると1つの式で判断できます。
所得分散で減る税金・社会保険料(年間の差額) > 法人の固定費(年間)
この不等式が成り立つなら二刀流は「あり」、成り立たないなら「まだ早い」
右辺:法人の固定費は、ほぼ決まっている
法人の固定費は、税理士に頼むかどうかでほぼ決まります。
| パターン | 年間固定費の目安 | 内訳 |
|---|---|---|
| 税理士なし(自分で申告) | 13万円前後 | 均等割7万円+会計ソフト約6万円 |
| 税理士あり(私の場合) | 約43万円 | 上記+顧問料・決算申告料 約30万円 |
左辺:差額は「自分の所得」で決まる
左辺の差額は、個人事業の所得をどれだけ法人に移せるか、役員報酬をいくらに設定するか、家族構成はどうか、で大きく変わります。
ここは一律に「いくら」と言えないので、目安で3パターン並べます。
| 見込める年間の差額 | 税理士なし(固定費13万円) | 税理士あり(固定費43万円) |
|---|---|---|
| 20万円 | 差し引き+7万円。手間を考えると微妙 | 差し引き−23万円。損 |
| 40万円 | +27万円。成立 | −3万円。ほぼトントン |
| 60万円 | +47万円。成立 | +17万円。成立 |
この表から言えるのは、税理士に任せる前提なら、年間50万円前後の差額が見込めないと二刀流は成立しにくいということです。
私は法人化前に自分で試算した
私も法人を作る前に、この左辺と右辺をざっくり自分で試算しました。
結果として「固定費を払っても十分に残る」と判断できたので設立に進みましたが、最終的な数字は税理士と一緒に詰めています。
自分の差額がいくらになるかは、所得や家族構成で本当に変わります。
ざっくり試算して「微妙」な範囲に入るなら、設立前に専門家に数字を出してもらう方が、後悔がありません。
私が二刀流を続けている理由【実体験】


ここまでデメリットを並べてきましたが、私は今も二刀流を続けています。
理由は「デメリットを分かったうえで、それでも残るものが大きかった」からです。
設立前:自分で試算して「残る」と分かった
法人を作る前に、前のパートの式を自分でざっくり当てはめました。
Web制作と不動産の賃貸という分けられる収入源があり、固定費を払っても十分に差額が残る見込みが立ったので、設立に踏み切りました。
設立時:申告は最初から税理士に任せた
法人の申告書は自力で仕上げる自信がなく、最初から税理士に依頼しました。
今の税理士はXで知り合った方で、マイクロ法人の事情を理解してくれている点が決め手でした。
設立後は個人の確定申告も同じ税理士にお願いしています。
法人からの収入が個人側に入るようになり、両方を整合させて正しく申告したかったからです。
続けている理由:役割分担が「仕組み」として回っている
法人はWeb制作と不動産の賃貸、個人は不動産の賃貸。
この役割分担が一度できあがると、あとは毎年同じ形を繰り返すだけです。
事務は税理士、本業と投資は私。
デメリットの1つ目(事務の二重化)と2つ目(固定費)を最初から受け入れたことで、残りの3つ(社会保険の設計・切り分け・損益分岐)も設立前に片付いていました。
マイクロ法人をFIRE戦略の中でどう位置づけているかは、こちらの記事で詳しく書いています。


迷ったら「法人化すべきか」を専門家に数字で確認する


ここまで読んで、「自分の場合はどうなんだろう」と数字に落とし切れない方も多いと思います。
それは当然で、前のパートの左辺(差額)は所得・家族構成・事業の中身で本当に変わるからです。
私は設立前、自力でざっくり試算するしかありませんでした。
数字を詰められたのは設立後、今の税理士に依頼してからです。
順番としては「設立前に、自分の数字で試算してもらう」方が本当は合理的でした。
その段階から相談を受けている税理士事務所があります。
税理士法人経営サポートプラスアルファ(法人化の無料相談)
- 「法人化した方がいいのか」を決める前の段階から、個人事業主が無料で相談できる
- オンライン面談で、個人事業主のままの場合と法人化した場合の税金を比較してもらえる
- 法人化後にかかる維持費や、会社設立時の注意点も面談内で確認できる
- 法人化のメリットが薄い場合は「今は法人化しない方がいい」と伝える方針を公表している
最後の点は、この記事の趣旨と同じです。
二刀流は「やった方が得な人」と「まだ早い人」がハッキリ分かれるので、作らない方がいいという答えが返ってくる相談先であることには意味があります。
「二刀流にすると手取りはいくら変わるのか」「そもそも法人を作る段階なのか」を、自分の数字で確認してから決めたい方は、こうした無料相談を使うのが一つの方法です。
なお、法人化した後の「税理士は必要か」「顧問料の相場」については、こちらの記事でまとめています。


よくある質問


- 個人事業主を廃業せずに法人を作れますか?
-
作れます。
個人事業主の開業届はそのままで、別に法人を設立して両方を並走させる形が「二刀流」です。
ただし、個人と法人でどの事業・収入源を受け持つかは、設立前に整理しておく必要があります。 - 同じ事業を個人と法人に分けてもいいですか?
-
1つの事業を形だけ2つに割る方法は、実態がないと判断されるリスクがあります。
私は「法人=Web制作・不動産の賃貸」「個人=不動産の賃貸」と、それぞれが独立した契約として説明できる形にしています。
どこまで認められるかは個別事情によるため、迷う場合は設立前に税理士へ確認してください。 - 二刀流にすると確定申告はどうなりますか?
-
個人の確定申告と法人の決算・申告の2本立てになります。
帳簿も2セット必要です。
私は法人の申告は最初から、個人の確定申告も法人設立後は税理士に依頼しています。 - 所得がいくらくらいから二刀流を検討すべきですか?
-
一律の基準はありませんが、目安は「所得分散で減る税・社会保険料の年間差額」が「法人の固定費(税理士なしで13万円前後・税理士ありで40万円台)」を上回るかどうかです。
税理士に任せる前提なら、年間50万円前後の差額が見込めるかが1つの分かれ目になります。 - 二刀流をやめて一本化したくなったらどうなりますか?
-
個人事業を畳むなら廃業届の提出、法人を畳むなら解散・清算の手続きが必要で、法人側は個人よりも手間と費用がかかります。
「やめるコスト」も法人側の方が大きいので、設立前に「続けられる形か」を確認しておくことが大切です。
まとめ|二刀流は「損する側」を知ってから決める


個人事業主と法人の掛け持ち(二刀流)は、向いている人には大きな効果がありますが、向いていない人には固定費と事務だけが増える仕組みです。
- 事務と会計が2本立てになる
- 法人の維持費は利益ゼロでも固定でかかる(私の場合は年間約43万円)
- 社会保険は法人側で加入し、役員報酬の設計が必要になる
- 事業の切り分けが曖昧だと否認リスクがある
- 所得が少ないうちは節税効果よりコストが上回る(損益分岐がある)
判断の軸はシンプルで、「所得分散による年間の差額 > 法人の固定費」が成り立つかどうかです。
自分の数字でこの不等式を確認してから決めれば、「作ったけれど得をしない」という後悔は避けられます。
メリット側の整理はこちらの記事で、維持費の内訳はこちらの記事でまとめています。




自分の所得と家族構成で「法人化した方がいいのか、まだ早いのか」を数字で確認したい方は、法人化前の段階から相談できる無料相談を使ってみてください。
二刀流は、始めるより「続けられる形にする」ことの方が大切です。
損する側を先に知ったうえで、自分に合う形を選んでください。

